NOVEL-LIFE

思いがけない小さな幸せ—街中での蝶との出会い—

その日、私は仕事終わりに会社から駅までの道を歩いていた。

定時であがりオフィスを出た後、いつも乗る地下鉄の駅まで通る道をてくてくと歩く。

まだ18時前のこの時間帯、街はそこそこ明るい。

このまま帰るにはもったいないような気がしつつも、あえて寄り道する気分でもない私は、まっすぐ帰るつもりだった。

(ああ、無事に今日も一日終わった)

疲労感半分、安心感と小さな充実感半分に、いつも同じ道をたどり帰途につく。

そして、数分歩き地下鉄駅の改札へと続く出入り口までたどり着いた。

普段と変わりない、色味のほとんどない殺風景な地下鉄の階段。

その単調な光景の中に足を踏み入れると、黙々と階段を降りていく。

(……あれ?)

その時。

ふと何かの気配に気付いた私は足を止めて脇に顔を向ける。

そこには一頭の蝶がいた。

私のすぐ右脇で、羽をひらひらとさせて舞っている。

濃い鮮やかな水色に黒色の縁。印象的な色合いの美しい羽を持つ蝶だった。

私は思わずそこで立ち止まり、しばし蝶を見つめた。

階段には他に誰も人はいない。

私と蝶だけだった。

思いがけない出会いに、私は驚きとともに蝶を見つめる。

(きれいだな……)

じっと見つめる私に、蝶は逃げるでも無く、ただそこでふわふわと宙を舞っていた。

色鮮やかな羽。ひらひらと舞う姿。

それだけでも十分美しい。

でも、それだけではなく、なぜかしばらく眺めていると、蝶の周りにはオーラのような光がぼんやりと漂っているかのように見えてきた。

何とも幻想的な光景。

そう見えるのは、この場所のせいだろうか?

黒と灰色が続く殺風景な地下鉄の階段という単調な風景の中に、今まで見たことのない美しい蝶が舞っている。

何とも不似合いな組み合わせ。

蝶といえば、明るい日差しの下、花畑の上をひらひらと舞っているイメージが強い。そんな自然あふれる明るい場所の似合う蝶が、どうしてここにいるんだろう?

不思議といえば不思議。

でも、言い換えれば、それはとても珍しいということだ。

だから、きっとこれはとてもラッキーなことなのだろう。

こんな街中で、しかも地下鉄の階段で、きれいな蝶と巡り会うことができたのだ。これはラッキーな出来事といっていいだろう。

(ああそうだ。ほんとに、ラッキーだ)

そう思った途端に、小さな感動と興奮が押し寄せる。

それまでの疲れていた心に、ふんわりと灯がともったようだった。

(姿を見せてくれて、ありがとう)

私は名残惜しい気がしつつも、蝶に小さく別れを告げて駅の改札へと向かった。

※このエッセイは、以前他のサービスで公開していたものを一部修正・追記して再公開したものです。

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