NOVEL-LIFE

旅先で見つけた小さな癒やし

まだまだ残暑の厳しい九月のある週末、突如ふらりと小旅行に出掛けた。

小旅行といっても、別に何をするわけでもない。

自宅から電車で数十分という近場の観光地に赴いて、ただぶらぶらと散策をするだけだ。

それでも、日常から離れて普段関わりのない街を歩くのはちょっとだけウキウキとした。一人で黙々と歩いているだけで心は満たされる。

特に、それが古い町並みの残る場所だとなお良い。

歴史ある木造建築や武家屋敷はなんかは独特の風情があって美しい。それに、どこか温かみも感じられる。

その景色の中に身を置いていると、それだけで不思議と心が落ち着く気さえするのだ。

「チリン、チリン……」

日差しが照りつける暑さも顧みず、古都をひたすら散策していると、ふと涼やかな音色が耳に入ってきた。

反射的に音の方向を振り返る。

目に入ったのは風鈴だった。

軒下で風に吹かれて小さく揺れ、可愛らしい音を鳴らしている。その音色は、まるで水面に広がる波紋のように小さく辺りに広がり、美しい余韻を残していた。

(へえー、風鈴か……)

ちょっと意外な気持ちと同時に、わずかな感動を覚えた。残暑の古都と風鈴があまりにもピッタリとマッチしていたからである。

それだけではない。風鈴の音は、たしかに爽やかで暑さを中和してくれていた。

ガラス同士がぶつかって鳴らす小さくはかなげなやさしい音、そして風になびいて揺れる短冊。その姿と音の両方で、風鈴は涼しさを演出してくれている。

実際の気温は変わらなくても、今このひととき、爽やかな気分に満たされることができたのだ。

最近ではほとんど姿を見かけることのない風鈴だが、私はこの時の風鈴に、夏の風物詩としてのたしかな存在感を感じた。

※このエッセイは、以前他のサービスで公開していたものを一部修正・追記して再公開したものです。

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